美しき日々〜レイ・ドッグウォーカー

2004 11/01(後編)

レイがドッグウォーカーを始めたのは16年前だ。
留守時に、ペットホテルや獣医へ預けるとストレスで体調を崩す犬がいる。
大都会で犬はもはや「かけがえのないかわいい子供」のような存在になっている。
従ってちょっとした環境の変化に、犬が耐えられないのだ。
それなら預けずに人を頼めばよい。犬好きで犬の扱いが上手な人。
私だ!彼はひらめいた。

ドッグウォーカーなら、いろいろな犬たちといつも一緒にいられる。
自分にとってこれほど理想的な仕事があるだろうか。
犬は彼の人生の一部だ。
こうして一頭また一頭と任され、レイの評判は口コミで広がっていった。
飼い主の犬への愛情は、時間で測られる。
これはドッグウォーカーとて同じだ。
結局のところ犬は血統でもお金でもなく、その犬に接触し、注いだ時間で決まる。
苦労をして、しつけ覚えさせる時間がかかるほど犬との絆も深まり、別れは辛くなる。
レイにとって思い出深い犬がいる。
ドーベルマンの母犬とその子供たちのリンとクィーンだ。
オスのリンは一度も外へ出されたことがなく、外へ出ても怯えて5メートルしか歩けなかった。それを今日は10メートル、翌日は30メートルと距離を延ばして散歩を教えていった。こうして他の犬同様リンにとっても、散歩は無上の喜びになった。
もう1頭のクィーンは、横断歩道に差し掛かるとレイの肩に前足を上げ、2本足で歩いた。散歩があまりにも嬉しくて楽しくて、盲人用の音楽が聞こえるとついそんな歩き方になるのだ。そのたびに早く!早く!と犬の名を呼び、ドライバーの笑いを誘うのだった。

だが大都会でドーベルマンの3頭飼いは厳しく、ほどなく田舎へ引き取られていった。
このときの別離は苦労しただけにかなり応えた。
別れてからも「どうしているだろうか?」しばしばリンたちのことを考えるのだった。
愛と死。
チャイニーズ・シャーペイのギンザとの別れも辛かった。
ギンザはフランス人夫妻に飼われていた。年に2回バカンスを取る欧米人家庭は
長期の依頼が多く、そのため犬に情も入りやすい。
チャイニーズ・シャーペイは顔も体も、グルグル巻きの糸をはずした豚角煮のような中型犬。ちょっとなぁー・のマニアックな犬種だ。
だがレイにとって、ギンザは愛らしかった。
彼女は散歩中に立ち止まっては、そのつぶらな瞳でたえずアイコンタクトをしてくるのだ。信号で立ち止まってはジーッ。しゃがんでは睫毛をパチパチさせジーッ。
歩きながら下から熱いまなざしでジーッ。何もなくてもジーッ。
そんなかわいい娘なのに、ギンザはしょっちゅうよその犬に噛まれるのだ。
皮膚がシワシワなので噛まれても怪我はないが、ともかく年がら年中噛まれていた。
噛まれると、クィーンと鳴いてあわててレイの元へしがみつく。
ギンザが噛まれるのは、角煮のようなおいしそうなボデイのせいではなく、匂いにあった。レイも彼女の匂いには閉口した。体臭がきついのではない。
フランス人マダムの使う香水の移り香が原因だ。それはあまりにも強烈で、嗅覚の住人である犬を刺激せずにはいられなかった。

このようにしじゅう理不尽な不幸に泣かされていたが、お嬢様育ちでおっとりしているギンザは、やさしく慰められると星のまたたく瞳でジーッを見つめ、すぐにまたケロっと歩き始めるのだった。
ギンザはオーナー夫妻と巴里へ帰り、1年後病死した。
訃報を知らされたレイは深く心を痛めた。それはしばらく続いた。
これまで様々な犬と出会い、別れがあった。
個性はそれぞれだが「さあ散歩へ行くよ」とリードを持った瞬間からその犬はレイの犬になるのだ。人なつっこい犬がいるように、犬なつっこい人がいる。レイは後者だ。
彼を信頼する人は、その温かい心が犬以外の動物にも向けられていることを知っている。
彼は仕事を超え、たいていいつも犬と心を通わせることができた。

 

吉田憲次=レイ  ドッグウォーカー
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