★★★ ペットフードは無法地帯(前編) ★★★
坂本 徹也 Sakamoto Tetsuya
1956年4月2日生まれ。兵庫県出身。
ライター、ペットジャーナリスト。早稲田大学第一文学部社会学科卒業。
雑誌の編集部を皮切りに、企業PR誌の編集、広告物の制作等を行う企画会社に勤務。
88年に独立して、企画集団パイクを設立。その後はビジネス誌、転職・独立情報誌の立ち上げおよび執筆にかかわる。2頭のミニチュアシュナウザーを飼ったことから、獣医療の現状に疑問を抱き始める。ペットを取り巻くビジネスや社会環境に警鐘を鳴らす著書多数。
坂本氏のサイト【ペットジャーナル】
五十嵐 本日は「よい獣医さんはどこにいる」「ペットの命を守る」の著者、坂本徹也さんからフードについてお話して下さるということで楽しみに参りました。
どうぞよろしくお願いします。坂本さんはミニチュアシュナウザーを2頭飼われていますが、愛犬にペットフードは与えていますか?

坂本 基本は手作り食なのですが、自分が取材したものの中から良いと思われるフードをいくつか選んで、忙しい朝などに組み合わせて使っています。

五十嵐 新刊「ペットフードで健康になる」を執筆された動機はなんでしょうか?

坂本 ペットフードに疑問を持ったのは、「東洋医学がペットを救う」という本を書く1年前あたりからです。取材中に、東洋医学の観点からドライフードは身体を冷やすという話を聞いたんですね。当時はアッシュに尿路疾患があったので、それで一気に疑問が広がりました。
尿路疾患は猫に多いのですが、ご飯にカツブシ、いわゆる猫マンマを食べていた時代にはそんなことはなかったそうです。
一般的に、猫のFUSの原因はキャットフードだといわれています。

五十嵐 そこでドックフードを変えたのですか?

坂本 ええ、手作り食に切り替えました。
そうしたらいつの間にか良くなってしまいました。
五十嵐 私は犬にはすべて手作りです。

坂本 もちろん手作り食が理想なのですが、一緒に長期の旅行をしたり、災害時などのことを考えると、ドックフードを切り捨ててしまうわけにいきません。
旅行時や避難所の生活で手作り食はできないでしょうから。
これも本を執筆する動機になりました。

五十嵐 うちの会員はフードにとても関心があります。
会誌で、会員のマックママに執筆していただきましたがかなり反響がありました。
しかし一方では「獣医さんで売られている物だから大丈夫」
とペットフードだけを与え続けている飼い主もいます。
飼い主はスローフードを実践しながら、犬にはジャンクフード。
また現在はたいていの獣医師で、フードは総合栄養食と称して売っています。

坂本 獣医さんは、大学で小動物の栄養学を学んできたわけではありません。
そんなカリキュラムはないのですから。
卒業してから総合栄養食を売っているフードのメーカや代理店が開く勉強会や説明会に招かれて参加し、そこで提供された情報を鵜呑みにしているだけです。

五十嵐 動物病院で売っているということは、当然メーカからのキックバックもあるでしょうしね。10%くらいですか?

坂本 もっとずっと上だと思いますよ。売り上げの70%をフードが占めている病院もあると聞きますから。中にはペットフードだけで年に3千万円も売り上げがあると自慢している人もいるそうです。
五十嵐 利益があれば、獣医師はドックフードを悪くいいませんよね。
フードが病気の根源だと気がついても止められません。
フードで儲けて、そのフードで病気を作ってまた儲ける!相乗効果です。

坂本 牛肉のアレルギーと診断される子がいますね。
その場合飼い主は、ペットフードの袋に牛と書いてあったから牛肉が原因だと思い込みます。でも本当にそうなのか? たとえば人間の食用の牛肉を食べさせても、同じように症状が起きるか試されたことがあるんでしょうか?
私が取材した獣医師の中には、肉そのものではなく肉と組み合わせてフードに入れられた様々な化学物質こそが原因ではないかと指摘される人たちがいました。
その場合はフードをやめ、自然食に変えたら何の問題も起こらない。
牛肉100%でアレルギーは起きないというんです。

五十嵐 化学物質が犬や猫に与える影響はどれくらいなのでしょうか?

坂本 犬や猫の場合、化学物質が腸管の壁面を傷つけて穴を開け、その結果アミノ酸として吸収されるはずのタンパク質がそのままの形で血液中に入ってくるためアレルギーが起きるのではないかといわれています。
化学物質が誕生してからの歴史って、地球時間を1時間で考えれば0.001秒にもなりませんよね。どこかの科学者たちがいくらデータを取って、この物質は何ppmまでなら摂取しても大丈夫といってもそれは完全に保障されたことにはならない。本当のところはまだ何もわかってないんです。
五十嵐 よくわからないものを与えてはいけない!と。

坂本 そのとおりです。

五十嵐 ところがペットフードには表示義務がありませんね。
表示されていても、実際何が入っているのかわかりません。

坂本 業界には、ペットフード公正取引協議会という名前の任意団体がありますが、それは公正取引委員会とは何の関係もありません。あくまでも任意の業界団体ですからメーカならどこでも加入することができます。
ペットフード公正取引協議会が取り決めている原材料表示は8割でよく、あとの2割は表示しなくてもかまわない仕組みになっている。しかもフードの賞味期限が3年と規約には書かれています。

五十嵐 3年!人間の食べ物で3年間もつものがあるでしょうか?おせんべいは?

坂本 おせんべいだって3年なんてもちませんよ。酸化するかカビてしまいます。

五十嵐 それと、隠されている2割をぜひ知りたい。

坂本 問題はそこですね。残りの2割は何なのですか?ということです。
人にはいえない材料が使われてるんですか? 
フードをもたせるために強力な化学物質を入れてあるんですか?
 色や匂いを何でつけていますか?
表示されてはいませんが検査をすれば、エトキシン、亜硝酸ナトリウム、BHA、BHТなどの化学物質が多くのフードから出てきます。

五十嵐 入れなければフードが3年ももつわけありませんね。
坂本 人間の食べ物には食品衛生法があり、牛や豚などの産業動物の飼料には飼料安全法がありますが、ペットフードにはその安全を守る法律もなければ管轄している省庁もありません。表示義務も管轄する省庁もないということは、メーカは何を入れてもどんな表示をしても咎められないということになります。
だから人間の食品には禁止されている、内臓の機能障害や発ガン性があるとされる添加物もペットフードには平気で使われるわけです。

五十嵐 よくこのフードはアーフコが認めたとあります。
AAFCOは安全のマークですか?「AAFCOとは米国飼料検査官協会の略」

坂本 AAFCOが認めたから、総合栄養食だと断定する獣医師がいますよね。
しかしAAFCOじたいは研究機関ではなく、提出された資料をもとに認可をする団体で、有識者からは業界寄りだといわれています。AAFCOの出している犬猫の栄養要求量なんてどこから出てきたものなのかと。

五十嵐 ひとつの食品だけで全ての栄養素を満たすなんて、人の食べ物にもありません。少し考えればわかることです。
まして何の規制も管轄もないペットフード。総合栄養食なんてそんな物あるはずがない。

坂本 ですからみんなが安心して使えるフードの基準をつくらなければならないと思いますよ。内容をしっかり検査・吟味して、これなら問題はありませんというフードを認定する基準をね。

五十嵐 高品質といってもメーカが一方的に発信しているだけですからね。
消費者にとっては、第三者的な機関があればベストです。

坂本 そうですね。本来なら、農林水産省とかが中心となって業界とは無縁な有識者を招き、そうした機関をつくってくれるのが一番だと思うのですが、それがかなわないなら民間の団体でもいいですけどね。

五十嵐 そういう団体ができたらぜひご協力したいと思います。
しかし、現状では表示されているものが信用できない。
今回坂本さんは、いちいち訪ね歩いてフードメーカを取材なさっています。次回はそのお話を伺います。